URA-HARA :


「隊長、隊長!起きて下さい。」

「んー・・・・・」


眠りから呼び起こすのはいつもキミの仕事。

薄く目を開けて、その日1番の光を瞳に受けると同時に、目に入るのは必死な形相のキミ。

“また怒らしてもうたかな”

なんていつものように暢気に考えながら、ボクはキミの頬に手を伸ばす。


「んー・・・そんな怖い顔せんと、優しぃ起こしてくれたらええのになぁ。」

「何、言ってんですか。僕は十分優しく起こしてますよ。貴方じゃなかったら、容赦なく1発叩いてます。」


貴方じゃなかったら―――そんな言葉を聴くためにボクはキミを怒らせる。

それは“URA-HARA”


例えば、キミに金色の髪に似合いの赤い花が描かれた髪留めを見つけたら、“これは女性のものです”と嫌がって、付けてくれないのが分かっていても、買わずにいられなかったり。

例えば、キミがボクに微笑みかける顔が見たくて、とことん甘やかしてやろうと抱きしめた瞬間、その身体を突き離して、泣かせてみたいと思ったり。

ボクを慕い、縋りついてくる顔が好き。でも、ある程度の距離を保とうとする機械的な姿勢も好き。

酷いかなぁ・・・酷いよなぁ・・・。


分かってる。

そんなことは全部分かっていて、そうせずにいられないのは――――


キミの事が大好きなボクの裏腹な衝動。

ボクはきっと甘えてる。キミになら甘えてもいいんだと何処かで信じて疑わない確信があるから。

なのに、触れずにいられないのは、いつか来るかもしれない最悪を不安に憂う自分がどこかにいるからか?


「隊長?」

「うん?どうしたん?」

「それは僕の台詞ですよ。大丈夫ですか?」

「大丈夫やで?何で?」

「何かいつもと違う感じがしたもので。気のせいならいいんですが。」

「気のせいや。そんな心配そうな顔せんでもええよ?」

「はい。あ、でも、ちょっと失礼しますね。」


そう言って、イヅルの冷たい手がボクの額にそっと当てられる。


「熱は無いですね。良かった・・・」

「なんや、熱って?酷いなぁ。」

「すいません。でも、やっぱりいつもの隊長と違う気がして。」

「そうなん?」

「はい。」


そうなんかなぁ。何でやろ?―――何でかなぁ。


「あ!そうか。」

「何?どしたん?」

「ふふ、お気持ちは分かります。今日は特別ですもんね。僕にとっても今日は特別です。」

「え?」


微笑む顔が可愛らしくて、起き抜けの頭でも、それはとても忠実に“抱きしめたい”と働く。

ボクはすぐさま、寝転ぶボクを見下ろす顔を見つめながら、首に手を回して、少し強引に引き寄せる。


「わっ、ちょっ!隊長!!」

「可愛ええなぁ。この子は。」

「何言ってんですか。起きて下さいって言ってるのに・・・。」

「ええやん。特別なんやろ?今日は。」


ぷぅーっと膨れる頬を右の人差し指でつついて、笑い掛ける。


「もう!ズルいです。」

「ええやん。たまには副隊長さんものんびりしやなあかんで。」

「僕までのんびりしてたら仕事が溜まる一方ですよ。」


やっぱり怒る顔も可愛いと思う。

ただ、笑っていて欲しい・・・そう思える程に生温い感情じゃない。

どんな表情もボクだけを焦がすモノである事を願ってやまないから、誰にでも見られるようなありふれたモノでは満足出来ない。


「でも、しょうがないですね。・・・今日は許します。」

「ええの?」

「言ったでしょう。僕にとっても大切な日だって。だから・・・」

「ん?」

「今日だけは、最後まで離さないで下さいね。」


今日だけは・・・なんて刹那的な言葉が愛おしい。

キミにお見通しの裏腹な恋慕の情を、ただ素直に受け入れて。

キミがボクの生まれたこの日を喜んでくれると言うのなら、ボクも今日だけはキミに全て、曝け出してみよう―――


「うん、今日は、このまま離さへんよ。」



明日にはまた訪れるだろう、裏腹なボクの想いも今は忘れて。

キミもあえて祝いの言葉を口にはしないからボクも心の中でそっと呟く。

ボクの嘘吐きな唇よりもずっと正確に、抱き合う熱がキミに伝えてくれるだろう。


――――ありがとう。




<後書き>
誕生日SSということでちょびっと可愛い隊長を目指したんですが、自爆しました(笑)“隊長って誕生日とか覚えてない、というかどうでもいい感じだろうな、で、もちろん完璧に覚えてるイヅルが毎年教えてあげるんだろうなー”と言う妄想から出来たSSです。そこにうちのブログ的にも記念のSSになったので、そういう要素を持たせたらこういう出来になりました。
これからも、ギンイヅ書いて行きたいと思います。読んで下さった方、有難うございました。