<side.m>
「あぁー腹減ったぁ。」
「あ?さっきラーメン食っただろ。しかも替え玉して。」
「うっせー。腹減ったっつったら、減ったの!」
「っんとに、そのちっこい身体のどこに入るんだか。」
クスクスっと口の端を微かに上げて藍が笑う。
藍の笑い方はどこか上品だ。それは昔から変わらない。
俺は、昔からこの顔に見惚れていた。
「・・・・ちっこい言うなよ。」
「っくく・・・拗ねんなって。」
「拗ねてねぇー!」
「はいはい。」
俺の頭を撫でながら、藍の顔はまだ笑ったままだ。
クラスの奴は言う。藍は俺の保護者みたいだと。
藍もそういう風に俺のことを見ている気がしてた。
多分、間違いないと思う。
藍はいつも俺より3歩ほど先を歩いている。
追いつきたくても追いつけない。少し前にある藍の背中をずっと見てきた。
そんな藍の事が好きだと自覚したのはいつのことだっただろう。
あまりに時間が経ち過ぎて、もう思い出せやしない。
親友という立場で何とか抑えてきた恋心は、あの日あまりにも簡単にかわされてしまった。
同じ親友という言葉を使って。
もう1度、告白する勇気は俺にはなかった。
だから、これから先も、俺は藍の背中をずっと見ていくんだ。
いいんだ。それで。他には何も望まない・・・望むことなんて出来やしない。
「藍、次はアイス食いに行こーぜ。」
「また、ダブルか?」
「今はトリプル!」
「・・・腹、壊すなよ。」
「うるせーよ!かーさんみたいなこと言ってんじゃねぇよ!ばーか!」
悪態をつく俺をみて、また藍が笑った。
いつもみたく上品に優しげな眼差しで。
「・・・笑ってんなよ。」
嘘。もっと、笑ってて。
あの日から、俺の願いは変わった。
想いが重なることを望めないなら、
せめて、いつまでもその笑顔の傍にいたい。
・・・それくらいは許せよな、藍。