延長線:2


<side.m>

あの日から藍の目をしっかり見れていない。

見てしまえば、何時、俺の想いが暴走して、その言葉を口走ってしまうか分からないから。

ほんの少し、その視線から、ずらして、今のまま。

これからもお前といたいから。

この教室の窓際は、藍のお気に入りの古書管理室が見える場所。

でも、藍の姿がここから見えたことなんて無い。

一緒にいても、一緒じゃない。今の俺たちの想いの差はちょうどこれくらいの距離だと思う。




「どうしたん?元気ないやん。」

「大地。」

「ぼーっとして、何考えとんの?中身少ない頭、そんなに使ったらあかんで。ほんまにからっぽになんで。」

「てっめえー!うっせーーーー。」

「あはは、いつものみなみやぁ〜w」



これは大地流の励まし方。

俺はよく知ってる。

こいつの優しいトコ。



大地はうちの大学に入学するために大阪から出てきた。

ノリがよくて、話が面白い。

俺はすぐ仲良くなれた。



でも、本当に仲良くなったのは、大地が自分の事を話してくれた時からだった。



「みなみ・・・俺なぁ、好きな人、追っかけてここまで来てん。」

「え?」

「大学なんてな、大阪で行けばよかってん。でもな、好きな人がこっちにおるから。」

「毎日、会いたくて?」

「うん。」

「そっか・・・。」


毎日会えて、嬉しいだろうに、その時の大地は何故かすごく寂しそうで俺は思わず聞いてしまった。


「毎日・・・会えてないのか?」

「毎日どころか・・・1回も会ってへんなぁ。」

「え?」

「分かってたんよ。俺、フラレたんやって。」

「・・・大地?」

「あ、俺、今、フリーちゃうで!モテモテやもん。代わりはいっぱいおる!」

「何だよ・・・それ。」

「でもな、やっぱ、好きやってんなー。って実感してるんよ。」

「もう、諦めんのか?」

「うん。ええねん。」



その時、俺が見た大地の顔は、あまりに悲しそうで。


「頑張ってもな、あかんものはあかんから。」


その言葉は自分の心に響いた。


「で?みなみは何で沈んどるん?」

「別に、沈んでなんかねえよ。」

「嘘付けー。お前は分かり易過ぎんねん。いつもよー喋るヤツが喋らんかったら、おかしいやろーが。」

「ホントに何でもないって。」

「そーか。ええわ。また、話したなったら言いや?」

「さんきゅ。」

「いやいや。一回500円で、勘弁したるし。」

「金取るのかよ!」

「当たり前やろー。」



あーなんか、ちょっと気、紛れた。

大地は思ってないかもしれないけど、俺にとって、大地は1番の理解者だと思う。

だって、その言葉や仕草が鏡の中の俺のようにそっくりな気がするから・・・


「まーた、やってんのか、お前ら。」


いつものように騒がしく話す俺たちを見つけて、藍が近づく。。


「藍くん、みなみぽーっとしとんねん!」

「いつもだろ。」

「うっせーよ!」

「元気付けたってー。俺、飲みモン買うてくるし。」

「面倒、押し付けんなよ。」

「面倒ってなんだよ?」

「んじゃ、行ってくるわぁー。」


気、遣われたんだろうな・・・多分。

直接、大地に、藍のことを相談したことは無い。

でも、大地は鏡だから。

きっと、俺の気持ちなんて見透かしてる。


「で、何かあったのか?」

「いや。別に。眠かっただけだっつーの。」


藍の目が酷く優しい。


『頑張ってもな、あかんものはあかんから。』


分かってる。

俺がこの想いをお前に言ってしまったら、きっとその優しい目は俺には向けられなくなる。


「藍・・・」

「何だよ?」

「・・・腹減った。」

「・・・お前、それで、元気なかったのか?」

「うっせー。」

「しょうがねえな。購買でなんか買ってきてやるよ。」

「さんきゅ。」


購買に走る藍の背中を見ながら、俺は小さく呟いた。


「好きだよ。」

絶対に藍には聞こえない声で。




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