延長線:3


<side.a>

本当は気がついていた。あの時、アイツが言いかけた言葉の続き。

みなみの俺への気持ち。

そんなのはみんな分かってた。

今まで、こんなに一緒にいたんだから、分からない方がどうかしてる。

けど・・・俺は臆病で。

今まで通りの俺たちでいられなくなることが、ただ怖くて・・・

想いを受け入れられないなら、気がつかないフリをしよう。

そう、決めた。



だけど、みなみはあれから、ちゃんと俺の目を見なくなった。

どこか、苦しそうな、辛そうな表情を滲ませて、

それでも、なんとか笑おうとしてる。



変わらない毎日をただ望んでいるだけなのに、

みなみが俺への感情を友達以上に切り替えた時点で

それはもう、今まで通りなんてわけにはいかなかったんだ。


俺は結局、大切な友達を傷つけているだけ。


「兄さん、今、いいかな?」

「うん?いいよ。入っておいで。」



兄、純の部屋は俺にとって、いつしか安らぎの場所になっていた。

小さい頃から、兄は俺とみなみのことをすごく、可愛がってくれて、

それは、一人っ子のみなみが幼い頃、本当の自分の兄と勘違いしていた程で。

だから、いつも何かあったら、兄さんの部屋に転がり込んでしまう。


「どうした、藍?また、何かあった?」

「またって。酷いな。」

「でも、何かあったんでしょ?」


兄さんは面白がるように俺の顔を覗き込む。


「別に、ないよ。」

「そうなの?」

「・・・・・ああ。」

「そう。それならいいけど。」


好奇心旺盛な癖に、人の感情には敏感で、こういう時、深くは追求しない。

兄の察しのよさに、いつも安心する。

でも、時々、見透かされていることが酷く痛かった。



「そういえば、みなみちゃんは〜?」

「・・・・え?」

「最近、顔見ないよね〜。」

「ああ、何か忙しいらしい。」



嘘をついた。

でも、察しのいい兄は何か気がついたかもしれない。

みなみのことを聞いたのも、すでに何か気がついていたのだろうか。


「そうなの?残念。みなみちゃん、久々に会いたいから、近いうちに連れてきてね、藍。」

「・・・ああ。」


やっぱり、気がついているんだろう。


「みなみちゃんの頭、早くなでなでしたいなー。

また、子犬みたいにキャンキャン吠えられちゃうだろうね。楽しみー。」

「嫌われるぞ?」

「大丈夫。愛があるからねー。」


それはわざと言っているのか?

俺が受け入れられないの分かってて。


「どうせ、俺は・・・」

「ん?」

「悪い。部屋戻る。」

「藍?どうした?」

「いや、別に。課題残ってるし、やってくる。」



こんなタイミングで出て行けば、何かあると思わないわけがないのに。

子どもみたいだな、俺。


「藍。」

「うん?」

「何かあったら、僕に言って?」

「・・・・うん。何もないから大丈夫。」

「そ。ならいいんだけどね。」

「・・・ああ。」

「藍は無理するからね。心配だよ。・・・あ、そうゆうトコはみなみちゃんにそっくり。」

「・・・・・」

「2人は僕の大事な弟。だから、何でも話して?」



優しいのは、時々すごく、痛い。

それは、きっとみなみも同じ。

中途半端な今の距離、それは優しさではなく、苦痛。

それなら、いっそ・・・

いっそ・・・


「ごめん。兄さん・・・もう連れてこれないかも。」

「え?藍?」



いっそ、全て、なくなってしまう方がいいのかもしれない。



NEXT→