延長線:5


<side.m>

「みなみ、ちょっと、話せるか?」

授業が終わって、帰る準備を始めた時、藍が声を掛けてきた。

「何だよ?」

「ちょっと。話あるんだ。」

「いいけど。」


嫌な予感がした。

俺のそういう予感は大抵、当たる。



いつも、通りかかる、家の近所の公園。

藍と真剣に話をする時は、なんとなく、いつもここに来てしまう。


「話ってなんだよ?」

「うん。あのな。」


藍が俯いた。

いい話ではないことがすぐに分かった。


「藍?」

「俺、好きな子できた。」

「え?」

「すっげー可愛いんだ。」

「・・・・」


あまりに突然のことだった。

藍がモテるのは昔からだったし、そういう話を今まで聞かなかったのがおかしいくらいで。

だけど・・・なんで、今?そんなこと、今まで言ってきたことないじゃん。


「そっか。よかったじゃん。オメデト。」

「だからさ、何ていうか、はっきりさせとこって思ってさ。」

「・・・・え?」

「お前・・・俺のこと、好きだろ?」


え?

今、なんて?

なんて言ったの?


「な、何、言ってんだ?」

「あん時、俺の事、好きだって言おうとしたんだろ?」

「・・・・・あ、藍?」

「お前、いい友達だって思ってたけど、そういう風に想われてるって分かったら・・・・俺・・・」


何を言おうとしてるの?


「迷惑なんだ。」


メイワク?

お前が俺の言葉、誤魔化すから、必死で溢れてしまわないように抑えてたのに・・・

それでも、藍にはメイワクなんだ・・・

アハハ・・・そっか。

男同士だもんな。気持ちわりぃよな。

アハハハ・・・


「彼女もお前とつるんでるの、面白くないらしいから、わりぃけど。」

「そっか。そ・・・だよな。」

「・・・みな?」

「帰って。」


突き離すなら、もっと潔くしろ・・・

優しげな声で名前呼んだりすんな。

ふざけんな。


「言いたい事、それだけだろ?分かった。お前に話しかけたりとか、もう、しねぇから、彼女に宜しく言っといてくれよ。・・・・・・早く、帰れよ。・・・・帰れ!!」


遠慮がちな藍の足音が少しずつ遠のいていく。


そんな勝手な言葉

お前の口から聞くなんて思わなかった。

そんな言葉でも、藍の口から零れる言葉は音楽みてぇに綺麗だって思ってたのに・・・



お前なんか、こっちから絶交してやるよ。


お前なんか・・・

お前なんか・・・


「・・・っき・・・だよぉ・・・・」


ふざけんな、藍。

どんだけ、一緒にいたと思ってんだよ。

最後の顔で分かっちまったじゃねぇか。

演技、下手過ぎんだよ。


なあ、藍?

優しすぎるよ。お前。


自分が言った言葉に傷ついた俺を、労わる様な目で見たりするな。

バレバレだろ?


似合わないことすんじゃねぇよ。


俺のためなんかに悪者になってくれなくていいから。

意気地ナシの俺なんかのために・・・


「ごめん・・・ごめん・・・藍。」


その口から、そんな言葉言わせてごめん。

俺にもっと勇気があって、ちゃんとあの時、全部言えてたら・・・



「藍・・・・・好きだよ・・・・」


だけど、俺たち、本当にこんな風になるしか、なかったのか?

傍にいたいって思うだけでも、お前を窮屈にさせてたのかなあ。


「藍・・・っ・・・・うぅ・・・・あいぃ・・・・・」


でも、お前は決めたんだろ?

なら、それが答えなんだろうな。


だったら、俺は・・・



「バイバイ・・・・」


小さく呟いた言葉は、藍の前では言えそうになかった最後の言葉。





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