<side.m>
もう、友達でいることさえ出来ないんだ。
今は通じ合えなくても、ただ、傍にいられたら、もしかしたらいつの日か・・・
そんな期待をすることももう出来ない。
藍が俺のために俺を突き放したのだと分かってはいる。
藍・・・
藍・・・
それでも、俺は・・・
これからもきっと変わることなく、お前が好きだよ。
あれから家に帰って、何も考えられずにベッドに突っ伏した。
どんな事情があっても、朝はくる。
ボサボサの寝癖の髪に、目の下のクマ。
なんて、酷い顔だろう・・・
自分で思っていた以上に突然やってきた藍との別れは辛かった。
けれど、どんなに苦しくても藍の顔を見なければいけない。
藍に余計な心配をかけたくない。
シャワーを浴びて、重い足を引き摺るようにして、なんとか大学にはとりあえず顔を出した。
でも、不思議だ。昨日までと何も変わってない。
その目はひたすら藍の姿を探していた。
もう、傍にいられないんだから目を背けてしまった方がいいのかもしれない。
でも、心に嘘はつけなくて、いつものように視線は藍の方に向かっている。
情けねぇな・・・俺。カッコ悪過ぎる・・・
「はぁ・・・授業、だりぃ・・・もう、帰っちまおうかな。」
こんなモヤモヤした気持ちのままじゃ、ダメだ。
ちゃんと、けじめ、つけよう・・・
「みーなみ!」
元気な声で、俺の名前が呼ばれ、後ろから肩を掴まれた。
「大地かあ。」
「俺で、残念やった?」
「そんなんじゃねえよ。」
「目の下、赤いなぁ。寝不足?」
寝不足・・・もあるけど。多分・・・
「それとも泣いてたん?」
「え?」
「なぁ、みなみ、こっち!」
大地は俺の腕を引っ張って、走り出す。
「おい、どこ行くんだよ?」
「今日はこのまま、帰っちゃうわよ〜!」
「気持ちわりぃ喋り方すんな。」
「ええから、ええから。とりあえず、おいで。」
残りの授業をサボって連れてこられたのは大地の住んでいるマンション。
一人暮らしにしては広く、綺麗に整理整頓され、すっきりとしていた。
フローリングの床に腰を下ろすと、大地はコーヒーを淹れてきて、
俺にマグカップを差し出しながら、聞いた。
「で、おめめ真っ赤のみなみクンは昨日、なんで泣いてもーたんかな?」
「うるせーよ。わざわざ、家まで連れてきたのは、それが聞きたかったからかよ。」
「そうやで。最近のみなみ、ちょっと元気なかったしなぁ。気になっててん。」
「何もねぇよ。」
「・・・・はぁ。」
大地は大げさな溜息を吐いて、俺をじっと見た。
「2人して、分かりやすく落ち込んで、なんでもないってゆうてもなぁ。説得力ないっちゅーねん。」
「え?」
「ホンマ、自分ら、似たもん同士やな。」
「・・・・・2人って?」
「藍くんや。」
「・・・・・」
「藍くんの事で、悩んでたんやろ。で、昨日、2人の中で、何かあった?合うてる?」
「・・・・・」
「ええよ。言いたくないなら、無理には聞かんし。」
大地は俺をじっと見て、ふわっと笑った。
「でも、一個だけ言わせてな。・・・2人とも、不器用すぎ。」
「何だよ。それ。」
「別に〜。思ったまま言うただけ。」
そう言って、大地はふと苦しそうな顔をして、それから、遠くの方を見て呟いた。
「自分、見てるみたいやわ。」
「え?」
「前に言うたやろ?俺にも好きな人おるって。」
「大地・・・」
「人のんやったら、どうしたらええか、分かるのになぁ。」
「・・・・・」
「聞いてくれたりせーへん?」
「え?」
「俺の失敗談。」
にこっと作られた笑顔は今まで見た大地の表情の中で1番、痛々しかった。
「お前、聞いて欲しいの?」
「えへへ、そうなんかなぁ?なんか、みなみにはぶっちゃけてまえたらなぁって思ってん。」
「そっか。」
「そしたら、みなみも俺に何でも話せるんちゃう?」
「それが目当てかよ。」
「えへ。」
「えへじゃねえよ。」
大地は大地なりに励まそうとしてくれてる。
同時に、大地にも報われない想いがあって、それをどこへ持っていけばいいのか分からず、
俺に自分を映しながら、求めてるのかもしれない。
自分が出すべき答えを。
「いいよ。話せよ。」
きっと、今の俺はお前を判ってやれるから。