残像:2


涼平―――秋野涼平と僕と明日香の3人は幼い頃からの付き合いだった。
実家が近所だったこともあって、高校を卒業するまでの僕等はいつも一緒にいた。
頭が良く、穏やかで、人懐っこい涼平の周りにはいつも光が当たっているような華やかな空気があった。サバサバしていて、自分の気に入った人間としか付き合おうとしないマイペースな明日香も、自分からは人と向き合おうとしない社交性の無さを自覚している僕も、涼平のそんな空気にいつも助けられていたような気がする。


けれど、大学進学と同時に実家から電車で3時間もかかる所で一人暮らしを始めた涼平は俺と明日香から少し距離を置くようになった。
直接、涼平に聞いた訳ではないけれど、俺と明日香が付き合い始めた事でいつの間にか友達としてのバランスが崩れてしまったのだろうと思っていた。電話やメールの数も日に日に減って、あんなに一緒にいた僕等は2年も経てば音信不通状態になり、結局、明日香の葬儀の日まで僕等三人が再会することは1度もなかった。


明日香の病気が悪化し、入院生活を強いられた頃、弱まっていく明日香の姿に不安を覚え心細くなった僕は久々に声が聴きたくなり、たった一度だけ涼平に電話したことがあった。

僕はその時初めて、涼平が僕と明日香から離れていった理由を知った。それは、僕がよく知っていた涼平の言葉とはとても思えなかった。今まで涼平の何を見ていたんだろうと酷く落ち込む程にその時の涼平の声は全くの別人のそれだった。

涼平は僕が涼平に向けるモノとは全く違う感情で僕を見ていたと言ったのだ。親友であるはずの明日香に醜い嫉妬すら覚えるほどに。
優しい涼平はそんな自分に耐え切れなかったのだろう、僕と明日香から離れることで、全てを拭い去ろうとしたのだ。なのに、明日香の病気を知って、またもその想いはじわじわと心の奥底を侵食し始めてしまった。
“今ならこの想いを告げられる、案の定、電話がかかってきた、これ以上ないチャンスだ―――そんな考えが過ぎった自分が現実に存在することに、自分を嘲笑ってやりたい気持ちだ”と半ば涙声で吐き捨てられた台詞に、僕は気付かぬうちに親友を苦しめただけでなく、この電話でさらに止めを刺してしまったようなものだと思い知らされた。


しかし、今から思えば、皮肉にも僕が涼平に縋るきっかけになったのは間違いなく、あの時の電話だ。あの時の涼平の言葉が、涼平なら何も聞かずに受け入れてくれるという確信を僕に与えた。
電話を切った後、僕は確かに、これ以上苦しめないように、傷つけないように、もう逢わない方がいいと思ったはずだった・・・それなのに今、こうして僕等は一緒にいる。


お互いに消せない明日香に対しての罪悪感・・・・・あの頃の僕等が再び出逢うのはきっと運命だったんだ。




NEXT→