残像:5


「ただいま。」
「おかえりなさーい♪」

いつものように仕事場から帰ってきた涼平の手には白い封筒が握られていた。

「ゆず、手紙来てたぞ。」
「誰からぁー?」
「明日香の実家から。」
「・・・え?」
「もうすぐ、1年だもんな・・・。」
「・・・そ、そうだね。」

涼平はそっと封筒を渡してくれ、それから気を利かせたのか、ネクタイを緩めながら、自分の部屋にそそくさと入っていった。


読まなくても中に書いてあることはだいたい想像できた。
もうすぐ、明日香の一周忌だ。半年間、1度も実家には帰っていない僕のために、うちの親から涼平のアパートにいることを聞いて、わざわざ手紙で連絡してくれたんだろう。
手紙には予想通り、見覚えのある明日香のお母さんの達筆な字で、“明日香に顔を見せに来てあげて欲しい”と書いてあった。

涼平は俺が読み終わるのをだいたい見計らっていたのか、丁度いいタイミングで僕のいるリビングに戻ってきた。涼平にも手紙の内容は分かっていたらしい。僕の目を真っ直ぐ見て尋ねる。

「帰るんだろ?」
「・・・多分。」
「ちゃんと顔見せて来い。辛くてもさ、すぐ戻ってくればいいから。本当は一緒に行ってやりたいけど、俺はしばらく連休取れそうにないし、法事が終わってから行くことになると思うから。」
「うん・・・。」
「明日香、逢いたがってるよ。お前に。」

こくんと頷く僕の頭を涼平はそっと撫でる。その後、しばらく涼平は僕に何も言わなかった。


分かってる。ちゃんと帰らなきゃいけない。
でも、今の僕はあの頃の僕とは違う。―――――明日香は僕を見て何て言うだろう。




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