残像:6


アパートの近くの駅で電車に乗ってから、1度乗り継いで、そろそろ2時間が経つ。
車窓には見慣れた風景。もうすぐ、降りなきゃいけない。
そろそろ準備しようかと棚から少し大きめの鞄を下ろし、抱えたまま再び座席に着く。
僕は車窓をじっと見つめながら、ふと子供の頃のことを思い出した。


僕が小4くらいの頃だったと思う。
一人で遠出した時、たった一度だけ降りなきゃいけない駅から30分以上寝過ごしてしまったことがあった。
目が覚めた時は流石に焦って、これからどうしようか頭を抱えたが、心の隅でこのまま乗っていけばどこに行くのだろうとワクワクしたのを覚えている。


―――――このまま通り過ぎてしまおうか。

あの時みたいに・・・そんな風に思った。
このまま誰もいないところまで行けるのなら、そうすればきっと何もかも忘れてしまえる。
最低な自分からも逃げてしまえるかもしれない。
そんな気持ちに揺れて、1度、棚から下ろした荷物を戻そうかと立ち上がった。



その時、実家への最寄駅の一つ手前の駅のアナウンスが入った。
電車が停車すると同時に何人かの客が降りて、人数の少なくなった車両には空間が出来る。


「あれ、柚希くん?」


逃げ道を探す僕を引き止める声。
立ち上がった所を見つけたんだろう、その人が穏やかな表情でだんだんと近づいてくる。
懐かしく響く、その声の持ち主が真っ直ぐ僕を見つめていた・・・。
忘れもしない、綺麗な横顔・・・。


もう逃げられない。その声は僕を捕えるには充分過ぎた――――。



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